平成31年度入学式学長式辞 (2019年4月7日)

式辞

 満開の桜と爽やかな新見の春風が、新しい出会いを祝福しています。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 本日、新入生の皆さんを前に、新・健康科学部開設式が執り行われ、新見公立大学の新しい歴史の1ページが開かれました。折しも、本年度は元号も平成から令和に変わり、新しい時代の幕開けの年になります。この歴史の節目の時に、新見公立大学 新・健康科学部 看護学科、健康保育学科、地域福祉学科の3学科、ならびに助産学専攻科の入学式を挙行できますことは、私共教職員にとりまして大いなる喜びであります。改めまして、新入生の皆さん、ならびにご列席のご家族の皆様に心よりのお祝いを申しあげます。また、ご多用中にもかかわりませず、開設式に引き続いてご臨席いただいておりますご来賓の皆様に厚く御礼を申し上げます。

 『人と地域を創る新見公立大学』は、『誠実・夢・人間愛』を建学の精神とし、人と人とが繋がり合う地域に根差した大学として、地域を拓く人材を育成するとともに、看護、保育、福祉の各専門領域の研究教育の成果を国際的な視野に立ち、広く社会へ還元することを目標としています。特に、本学は少子・高齢化と人口減少が進む課題先進地域・新見市にあり、日本の中山間地域の持続可能な未来像としての『人に優しい地域共生社会』の構築を実践的に研究・教育していくフィールドとして最も優れていると考えています。皆さんは、この地域に開かれたキャンパスで、人と人、人と地域を繋ぎ、乳幼児から高齢者までの全ての世代の心と体の健康を支える専門職としての知識、技能の修得とともに、人間力の向上に努めてください。

 ところで、ヒトは、この地球上で、母親だけでなく複数の他者が関与して、共同で育児をする唯一の動物であります。生物が環境に適応して進化するという法則からすると、ヒトは、共同で出産と子育をし、共に寄り添い、助け合って生きるという集落社会の環境に適応して進化、生存してきた動物の1種、ホモサピエンスということになります。ヒトの心のはたらきの発達とその進化的な基盤を「比較認知発達科学」という新しい学際的領域で研究されている京都大学の明和政子教授によると、ヒトは他者に依存し依存されるという関係性を可能にする心のはたらき、つまり、自分の利益よりも、周りのヒトの利益を優先する心である「利他の心」が自然にめばえ、利他的な行為が快い感情と共感性を導く動物として適応的に生命をつないできたといいます。
 人類の繁栄と文明の進化や経済の発展による物質的な豊かさにより、人と人との繋がりが希薄化した現代社会では、他人のことを思いやる「利他の心」が自然にめばえてくるという事実が分かり難くなっているのかも知れません。しかし、皆さんが、今回、看護、保育、福祉の領域を自らの進むべき道として選択したことの背景には、人間本
来の心のはたらきである「利他の心」が、一人ひとりの心にめばえ、育まれてきたからであるに違いありません。皆さんは、心のなかにある「利他の心」を基盤に、病める人、障害のある人、こどもや高齢者など支えを必要とする人の声に、「傾ける耳」、「涙する目」、そして、「踏み出す勇気と差し伸べる手」を持ち、「人に優しい地域共生社会」を構想できる専門職としての知識、技能と人間力を磨いてください。
 本日より、新見公立大学は、『共生社会の基盤を創る福祉』、『地域ぐるみで支えあう保育』『心と体の健康を支える看護』の3学科が協働して、「健やかな子供の発達、心の豊かさの向上、高齢者の健康寿命の延伸」を目標に、皆さんとともに地域住民や新見市と協働して、地域を拓く健康科学部としての歩みを進めていきます。新しいカリキュラムには、1学部3学科としての共通科目や新見市全域をキャンパスとする地域共同演習など、共生社会における個々の職種の役割や多職種連携の在り方を実践的に学修するプログラムが組み込まれています。一期生となります皆さんには、自分達が新見公立大学の新しい歴史を構築していくという心構えで、これらのプログラムを学生目線で批判的に吟味し、提言してくれることを期待しています。柔軟に対応して改革を続けることが出来るのが小規模大学の特徴であり、新見公立大学の伝統であると思っています。

 なお、幸か不幸か、この街には、若者向けのいわゆる娯楽施設はなく、出かけて行くためには相応の時間がかかるという不便さがあります。他方、勉学に専念し、人間力と感性を養うのにふさわしい学修環境、四季折々の変化に富む豊かな自然、そして中山間地域に暮らす人々の生活の現場があります。また、お金が最優先で進む現代のマネー資本主義に対する補完システムである、里山の休眠資産の再利用やお金に換算できない価値の循環によるコミュニティーの再生を目指す里山資本主義の実像に触れることも出来ます。これからの4年間、良き師、良き友との良き人間関係を構築しつつ、オンとオフのスイッチを上手に切り替え、健康に留意して充実した学生生活を送ってください。

 ご列席のご家族の皆様、ならびにご来賓の皆様に、改めて本学に対する温かいご支援とご厚情をお願い致しまして、私の式辞とさせていただきます。

平成31年4月7日
新見公立大学学長 公文 裕巳