チーズ摂取と認知症発症の関連を明らかに


 健康科学部地域福祉学科 鄭 丞媛(ジョン・スンウォン)教授と井上祐介講師が、株式会社明治との共同研究の結果、「週1回以上のチーズ摂取習慣が認知症発症率の低下と関連する」ことを明らかにしました。

 この研究成果は、栄養学分野で評価の高い国際学術誌『Nutrients』に2025年10月25日に掲載されました。

(Jeong et al. Nutrients, 2025, https://doi.org/10.3390/nu17213363

 

写真:井上講師(左)、鄭教授(右)

 

 超高齢社会として先進国である日本において、チーズ摂取による認知機能の維持可能性の研究は、健康寿命の延伸に寄与することが期待されています。

 本研究は、海外でも注目され、米国の代表的なヘルス関連メディアの一つである「Medical News Today」にも紹介されています。その他にも、Daily Mail、Independent、HuffPost、News Medical Life Sciences、Euro Newsなど、欧州諸国、その他の国々でも報道されました。


https://www.medicalnewstoday.com/articles/cheese-dementia-brain-health

Written by Robby Berman on December 14, 2025 — Fact checked by Jennifer Chesak, MSJ

 

研究概要

 株式会社 明治 プレスリリース

https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2025/12_08/index.html

 

鄭先生・井上先生インタビュー

Q1:今回の研究で最も重要な発見は何であり、どの点がこれまでの研究と異なりますか?

 今回の研究で最も重要な点は、日本の高齢者約8000人を対象にした3年間の追跡調査において、週に1回以上チーズを食べる習慣のある方はそうでない方に比べて認知症を発症する割合が低いという傾向が示された点です。
  これまでの研究では、ある時点での食事内容と認知機能を同時に調べたものが多く、実際にその後どのような経過をたどるかまでは分かっていませんでした。本研究では、時間の経過を追って調査したことで、より現実に近い形で関連を評価できた点が特徴です。

 

 Q2:本研究は「観察研究」ですが、結果をどのように解釈すべきでしょうか?

   観察研究とは、研究者が特定の行動や生活習慣を指示するのではなく、人々が普段どのような生活を送っているのかをそのまま観察し、健康との関係を調べる研究方法です。
   本研究は観察研究ですので、「チーズを食べる人」と「チーズを食べない人」を研究者らが決めたわけではありません。ですので、より自然に近い研究結果を得ることができます。一方、チーズを食べる習慣がある方は、食生活全体が比較的整っていたり、健康に対する意識が高かったりする可能性もあります。そのため、今回の研究では普段の食生活も考慮して分析を行いましたが、すべての要因を完全に調整することはできないため「チーズを食べれば認知症を予防できる」と、断定できるものではありません。
   結果は「チーズ摂取と認知症発症のしにくさに関連がみられた」と理解していただくことが大切です。この結果は、今後さらに詳しい研究を進めるための手がかりになるものと考えています。

 

 Q3:日本人高齢者を対象とした点には、どのような学術的・社会的意義がありますか?

   これまでのチーズや乳製品と認知機能に関する研究は、欧米の人々を対象としたものが中心でした。一方、日本では食文化が大きく異なり、チーズの摂取量も比較的少ないという特徴があります。
   そのような日本人高齢者を対象に調査を行い、関連が示されたということは、日本の実情に即した認知症研究として重要な意味を持ちます。超高齢社会である日本において、身近な生活習慣に目を向けた研究は、社会的にも意義があると考えています。
 

 Q4:今回の知見は、今後の認知症予防研究や公衆衛生政策にどのように活かされると考えられますか?

    今回の研究結果は、日常の食生活と認知症との関係を考えるうえでの一つの科学的な手がかりになると考えています。特定の食品を積極的に勧めるものではありませんが、バランスのよい食事や健康的な生活習慣の重要性を考える際の参考情報として、今後の研究や予防政策に活かされる可能性があります。
    今後は、どのような食事のあり方がより望ましいのかについて、さらに丁寧に検証していきたいと考えています。
 
   ―ありがとうございました。今後の先生方の研究をまた楽しみにしています。