爽やかな新見の春風とすがすがしい青空が新しい出会いを祝福しています。新入生の皆さん、ご列席のご家族の皆様、本日はおめでとうございます。コロナ禍での4年目の春を迎え、ようやくマスク無しでも式典に参加ができる状況となり、今、こうしてご家族の皆様を交えての入学式が開催できていることを素直に喜び合いたいと思います。


 新見公立大学は、2019年度に新・健康科学部1学部3学科の4年制大学として新たにスタートし、丁度3週間前の卒業式で新体制での第一期生を無事に送りだすことができました。本年度は、5年目となり、4年間の学修成果を踏まえ、学修カリキュラムの修正と充実を図り、再スタートします。同時に、大学院を看護学研究科から健康科学研究科に名称変更し、看護学専攻に加えて地域福祉学専攻・修士課程を新設、看護学専攻には博士後期課程を新設し、「人と地域を創る新見公立大学NiU」 として更なる飛躍に向けて体制を整備しました。本日、学部生として、健康保育学科50人、看護学科88人、地域福祉学科53人の第5期生、ならびに、助産学専攻科5人、大学院生として、地域福祉学専攻修士課程4人、看護学専攻博士前期課程5人、博士後期課程2人の新入生を迎え、学生総数は789人となりました。この学生数は、少子・高齢化と人口減少が進む新見市の人口約2万7千人、高齢化率43%から考えると際立った大人数であると言えます。このことは、本学が日本の中山間地域にある唯一の保健福祉系の公立大学であり、その役割として、地域共生社会の構築とその基盤となる「中山間地域の全世代型地域包括ケア」の課題追究と解決策を研究・教育することを目指して進化を続けている特色ある大学であることを示しています。引き続き、課題先進地域の現場で、学生と教員との距離が近い血の通う教育の伝統を基盤に、中山間地域の持続可能な未来を支える高度専門職人材、実践的指導者、ならびに創造的な研究者育成に努めていきたいと考えています。

 さて、学部入学生の皆さんは、高校生としての3年間をまるまるコロナ禍に翻弄されたことになりました。「青春って、すごく密なので」という言葉は、昨年の夏の甲子園野球大会で東北勢初の優勝を果たした仙台育英高校 須江航(すえわたる)監督の優勝インタビューの中で語られたものです。高校生たちが蜜を避けなければならなかった青春時代の苦悩を表す言葉として幅広い世代の方々の心に強く響きました。コロナ感染症対策の大原則は、「密閉」、「密集」、「密接」の3密を避けることであり、皆さんには思い出となる学校行事の多くを諦めざるを得ない現実があったと思います。しかし、3年間諦めないで頑張ったこと、そのことを応援してくれた仲間や家族、そして高校の先生やクラブ活動の指導者などとの交流もそれぞれにあったことと思います。なによりも、本学への進学に向けて受験勉強を続け、今日の日を迎えられたことは、間違いなく3年間諦めないで頑張ったことのひとつだと思います。今日からは、コロナ禍での3年間の高校生活がこれからの人生にとってプラスになることが必ずあると信じて、ポストコロナの時代として訪れる大学での濃密な青春の時に生かしてください。

 ところで、本学の健康科学の目標は、「病気や障害があっても、社会に適応してその人らしく生活している状態が健康であり、それを支える人と仕組みを科学する」ことであります。学部生は、保育、看護、福祉の高度専門職としての知識、技能の修得とともに、建学の精神である「誠実、夢、人間愛」を基盤として、「人間力の向上」に努めてください。本学では、学内や実習施設での学びだけでなく、各学科ならびに3学科が共同して地域をフィールドとして学修するとともに、ボランティア活動をはじめ地域貢献活動にも全学で取り組んでいます。皆さんには、新見市全域を学びのキャンパスとして人の優しさやぬくもり、人の孤独と生きづらさに直接触れながら、共に生きる社会と共に生きる人のことを考える「利他の心」と共感力を養い、「人の痛みが分かる優しい人間として生きる力」を身につけて欲しいと思っています。

 また、本年度より、共に生きる社会のウエルビーイングを実現するための仕組みを科学することを目指して大学院を改組しました。大学院生の皆さんには、「健やかな子どもの発達、心の豊かさの向上、高齢者の健康寿命の延伸」を指標として、それぞれの視点で、地域共生社会の基盤となる「中山間地域の全世代型地域包括ケア」の課題を追究し、自治体に向けて産学官民協働での解決策として提言しうるレベルの研究を実施して欲しいと思っています。今、残念ながら輝きを失いつつある日本は、少子・高齢化と人口減少に伴う諸々の課題の顕在化、社会に拡散した分断と格差のコロナ禍での拡大、ロシアのウクライナ侵攻に代表される世界的な人権の無視と人間性喪失の傾向などにより、多くの人が孤独の時代での生きづらさを感じるようになっています。また、子どもの幸福度が著しく低下していることも大きな課題となっています。このような時代背景のなか、助産学専攻科を含めて、中山間地域の持続可能な未来の構築を目指す本学の地域ぐるみの取り組みの意義と役割は極めて重要であると考えています。

 共に学び共に生きる学生ファーストの本学に学ぶ皆さんには、これからは広く社会の出来事や政治の事、特に、さまざまな負の遺産をあなた方将来世代に先送りしている現在の日本の政治にも関心を持って欲しいと思っています。政治の現状を変えることは簡単なことではありませんが、先ずは皆さん方若者が選挙に行くことから始めなくてはなりません。共に生きる社会のウエルビーイングを目指して、選挙権を行使することも本学の学生に求められていることです。

 以上、入学生の皆さんには様々な要望をしましたが、本日より明るい笑顔に思いやりと感謝の言葉を添えた挨拶を交わしながら、友情の絆を結びつつ、健康に留意して充実した学生生活を送って下さい。ご列席のご家族の皆様には、本学に対する温かいご支援をお願い致しまして、私の式辞とさせていただきます。

令和5年4月8日

                                                                                                                                                                                                                                           新見公立大学学長 公文 裕巳
 

令和5年度 新見公立大学 入学式学長式辞.pdf [ 139 KB pdfファイル]