爽やかな新見の春風と満開の桜が新しい出会いを祝福しています。新入生の皆さん、ならびにご列席のご家族の皆様、本日はおめでとうございます。足掛け4年間続いた新型コロナウイルスの感染拡大が実質的に収束し、実に5年ぶりにコロナ禍以前の形で入学式が開催できることを大変嬉しく思っています。ご臨席を賜りました戎新見市長をはじめご来賓の皆様に心より感謝申し上げます。

 新見公立大学は、2019年度に健康科学部1学部3学科の4年制大学として新たにスタートしました。昨年2023年度には大学院を健康科学研究科に改組して、「課題先進地域の現場で人と地域を創る新見公立大学NiU」として教育・研究体制を着実に進化させています。本年度は、健康科学部の6期生として健康保育学科57人、看護学科86人、地域福祉学科55人、ならびに、助産学専攻科6人、大学院健康科学研究科看護学専攻博士前期課程3人、同博士後期課程2人、地域福祉学専攻修士課程2人の新入生を迎え、学生総数は本学44年の歴史のなかで最大の798人となりました。引き続き、日本の中山間地域にある唯一の保健福祉系の公立大学として、中山間地域の持続可能な未来像としての地域共生社会の構築、ならびに全世代型地域包括ケアの課題の追求と解決策を研究・教育する特色ある大学として、新入生の皆さんとともに学生ファーストの大学を目指していきたいと思っています。

 さて、学部入学生の皆さんは、コロナ禍のなか、長く辛かった受験勉強を経て、今日の日を迎えられた事と思います。皆さんの他者との競争は、今回の入試でひとまず終了し、これからは友人とともに切磋琢磨して自分自身を磨くことに専念して下さい。人間の総合力は、知識、技能など数値化できる能力と、必ずしも数値化ができない「人間力」との総和であり、如何にして自分自身の総合力としての人間力を高めていくかということがこれからの最重要課題となります。

 ところで、21世紀は、AIをはじめとする科学技術やICTの著しい進歩、ならびに地球温暖化から沸騰化へとすすむ気候変動に加えて、さまざまな価値観や社会の仕組みが大きく変貌し、予測不可能な時代になると考えられていました。しかも、この4年間に新型コロナウイルスパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・ハマス戦争など非人道的事態の連鎖、そして年初からの能登半島地震などの惨状に遭遇し、改めて、飢餓、戦争、自然災害、感染症という人類の歴史的課題の克服が21世紀においても容易でないことが明らかとなっています。したがって、皆さんは、21世紀社会の予測不可能性を前提として、社会のあるべき姿とともに自分自身の役割について考えながら歩んでいくことになります。

 本学の健康科学の目標は、「病気や障害があっても、社会に適応してその人らしく生活している状態が健康であり、それを支える人と仕組みを科学する」ことであります。皆さんは、健康を支える人として、保育、看護、福祉の高度専門職としての知識、技能の修得とともに、建学の精神である「誠実、夢、人間愛」を基盤として、「人間力の向上」に努めてください。本学では、学内や実習施設での学修だけでなく、各学科ならびに3学科共同で地域をフィールドとして学修することや、全学で取り組む地域貢献活動をとおして、皆さんの地域貢献・多職種連携力の育成を後押ししています。皆さんは、新見市全域を学びのキャンパスとして、人の優しさやぬくもり、人の孤独や生きづらさに直接触れ、人と人との繋がりやコミュニケーションの大切さを心に刻みつつ、「人の痛みが分かる優しい人間として生きる力」を身につけてください。

 人は、本来、共同で出産と子育をし、共に寄り添い、助け合って生きるという環境に適応して進化、生存してきた動物の1種、ホモサピエンスであります。そのため、他者に依存し依存されるという関係性を可能にする心のはたらき、つまり、自分の利益よりも、周りの人の利益を優先する心である「利他の心」が自然にめばえ、利他的な行為が快い感情と共感性を導く動物として適応的に生命をつないできました。人類の繁栄と文明の進化や経済の発展による物質的な豊かさとともに、人と人との繋がりが希薄化した現代社会では、「利他の心」が自然にめばえてくることが分かり難くなっているのかも知れません。しかし、皆さんが、今回、保育、看護、福祉の領域を自らの進むべき道として選択した背景には、人間本来の心のはたらきである「利他の心」が自然にめばえ、育まれてきたからに違いありません。この「利他の心」こそが、皆さんが身に付ける人間力の根底となる人の優しさです。

 これから始まる日常の学びにおいて、①共に生きる社会の構築について常に考え続けること、②自分の存在が他の人にとって意味があるということを実感すること、そして、③利他的な行動が快い感情と共感性を生み出すこと、即ち、利他の心の意味を体感することを願っています。また、本学に学ぶ皆さんは、これからは広く社会の出来事、特に、さまざまな負の遺産をあなた方将来世代に先送りをしている日本の政治と「政治とカネ問題」にみる無責任な政治家の姿勢にも目を向ける必要があります。皆さんの世代が負担する国の借金は今年度末には1105兆円余りまで膨らみます。政治の現状を変えることは簡単なことではありませんが、先ずは皆さん方若者が選挙に行くことから始めなくてはなりません。共に生きる社会の構築を目指して、自ら判断することと、選挙権を行使することも本学の学生に求められていることです。

 以上、入学生の皆さんには様々な要望をしましたが、本日より明るい笑顔で挨拶を交わしながら、友情の絆を結びつつ、健康に留意して充実した学生生活を送って下さい。ご列席のご家族の皆様には、本学に対する温かいご支援をお願い致しまして、私の式辞とさせていただきます。

令和6年4月6日  
新見公立大学学長 公文 裕巳 

 

令和6年度 公立大学法人 新見公立大学入学式 学長式辞(2024年4月6日).pdf [ 131 KB pdfファイル]